他メディアとの連携で真価を発揮するモバイル広告

「2008/04/11 村上勇一郎(ドコモ・ドットコム)」 さんの記事を加工・参照化

http://japan.cnet.com/mobile/internet/story/0,3800084323,20370870,00.htm
 
 
今回はモバイル広告について考察を加えたい。まずは電通が発表している過去3年間の日本の媒体別の広告費をご覧いただきたい。

 

図 媒体別広告費(出典:電通「2007年日本の広告費)

2007年の広告費を媒体別にみると、テレビをはじめとする、新聞、雑誌、ラジオの「4マス媒体」の広告費が軒並み減少する一方、「セールスプロモーションメディア(SP)広告」と呼ばれる屋外広告、交通広告、ダイレクトメール(DM)、フリーペーパー、POP広告が、増加していることが分かる(ただし折込、電話帳を除く)。
 
 表中段にあるインターネット広告費は、おおまかに言うとPC広告とモバイル広告を合算したものとなっていて、前年に比べて20%以上伸びており、全体に占める構成比は2005年の5.6%から2007年の8.6%に上昇している。
 
 テレビおよび新聞が占める広告費が合算して全体の4割以上を占めており、突出して高いと言わざるを得ないのだが、それでもインターネット広告の躍進は目覚ましいものがあり、「4マス媒体」から5マス媒体」の時代に突入したと言っても過言ではない。
 
 
 
インターネット広告の約15%を占めるモバイル広告
 
先ほどの日本の広告費の表中段にあるインターネット広告費(媒体費)を細分化し、2011年までの将来展望を付け加えたものが以下のグラフである。
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
図 インターネット広告費予測(出典:電通総研)
 
  これを見ると、モバイルの広告費は、インターネット広告全体の15%前後を占める形で推移している。日本のインターネットアクセスのファーストウィンドウ(最初にアクセスする画面)がモバイルに移行していことを考えると、個人的には、モバイル広告費は20%強のポテンシャルはあるのではないかと予想している。ただ、そうなっていくためには前々回のコラムでも申し上げたように、広告クライアントをモバイルサイトへ誘致することが不可欠となる。
 
 
 
プッシュ型との相性が良いモバイル広告
 
インターネット広告推進協議会(JIAA)が定義しているインターネット広告の種類が以下の表である。インターネットを使った広告という意味では、ネット接続が可能な携帯端末への広告配信も含まれる。デバイスはPCだけでなく携帯電話やカーナビ、デジタルテレビと拡大し、ユーザー層もさらに広がりを見せている。

 
 
 
 
 
 
 
図 インターネット広告の種類(出典:デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム ネット広告講座「基礎編」)
  
 インターネット広告は現状、ウェブページにユーザー側がアクセスする「プル型」と、メールなどの手法でユーザーに直接送られる「プッシュ型」の2つに大きく分けられるが、 こうした閲覧端末による違いから、新たな手法も出てくると思われる。
 
 広告形態をプッシュ型とプル型に分類した場合、モバイルの特性である24時間30cmのメディア(※編集部注:24時間、常にユーザーの30cm以内のところにあるメディア、という意味)のプッシュ型広告の効果は大きい。公式サイトの中でも、その特性をフルに活かしたサイトの1つであるTSUTAYA online週約3400万通以上のメールマガジンを携帯電話向けに配信しており、担当者曰く、「携帯電話にメールが送られてきた場合、10分以内に80%以上の人が開封し、その効果は2日間持続する」という。前回のコラムでもご覧いただいたが、ビデオリサーチが携帯電話、PHSの毎60分利用率を調べた結果が以下である。

 
 
 
 
 
 
図 携帯電話、PHS所有者全体における、携帯電話、PHSの毎60分利用率(週平均)(出典:ビデオリサーチインタラクティブのデータを元に作成)
  
 水色の折れ線グラフが、メール機能の利用率を示す部分である。全てがメール型の広告という訳ではないが、プル型のインターネット機能と比較しても倍以上利用されており、メール広告は高い効果があることが予想される。
 
 
他メディアとの連携こそがモバイル広告の真骨頂
 
 筆者は10年近くインターネット業界に携わっており、その経験から「モバイルはメインメディアにはなりえない」という持論がある。携帯電話が高機能化し、PCに追いつこうとしてはいるものの、画面サイズや表現力を考慮した場合、4大メディアの持つ力にはかなわないというのが正直なところである。
 
モバイルメディアの特性はその圧倒的な接触時間にあり、他のメディアと連携することで真価を発揮すと考えている。また、他のメディアを阻害しない形でユーザーに接触できるのも特徴で、テレビで見たちょっと気になることを調べるのにモバイルは最適のデバイスだと言える。それはテレビ以外のメディアでも同様のことが言える。携帯電話を中心(ハブ)としたクロスメディアプロモーションにこそモバイル広告の真骨頂があると思っている。 

 
 
 
 
 
 
 
図 携帯電話はどんなメディアとも連携が可能(各メディアの市場規模は電通「2007 日本の広告費」による。ただしPCとモバイルの市場規模は電通総研「2007年~2011年のインターネット広告費に関する試算」に基づく)
 
 今後はそれぞれのメディアの特性を活かしながら携帯電話といかに連携するかが重要となり、それを設計できるか否かがモバイル広告成功のカギと言える。
 
テレビは広くあまねくお知らせする「告知力」では最強のメディアだ。雑誌においてはユーザーの嗜好性に特化した形でモバイルコンテンツを提供すると効果がある。実際、NTTドコモの検索キーワードランキングの中にも、なぜ登場したかが分からないキーワードが急上昇してくることがあるが、よく調べてみると、朝の「目覚ましテレビ」などの番組で放送されていた内容であったり、「ポップティーン」などの雑誌の中で(一般の人は知らないが)良く使われる言葉であったりするから非常に面白い。
 
 その他にも新聞メディアの持つ信用力は絶大であるし、ラジオのパーソナリティとリスナーの絆(親和性、親近感)は他のメディアに類を見ない。ラジオのモバイルコンテンツの企画をいただいた際にお聞きして、びっくりしたことがあるが、ラジオの通販は他のメディアに比べて、クレームや返品が少ないとのこと。つまりは、パーソナリティがおすすめするものに対して、リスナーは「毎日聞いている、ラジオ番組のパーソナリティがおすすめするものだったら信用できる」と感じているらしいのだ。
 
 こういった色々なメディアと連携して、その良さを失わず連携することがモバイル広告には必要になる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
図  モバイルは他のメディアの特徴を生かして連携することが必要になる
 
 
テレビ離れが進む若者
 
 テレビと視聴者の関係については、面白いデータがあるのでここでご紹介したい。野村総合研究所が行ったアンケート調査で、テレビの視聴時間に関して2006年と2007年の結果を比べたものである。

 
 
 
 
 
 
 
 
図  テレビ視聴に関する調査結果(出典:野村総合研究所「コンテンツ消費に関する調査」(20079月))
 
 ここで注目していただきたいのが、15才~29才までの「テレビを生で見る時間」と「録画番組を見る時間」の減少ぶりである。それぞれ4割近く減少しており、若者の急速なテレビ離れが進んでいることを示している。
 
 また、弊社ならびに関係会社で大学生を対象に3回ほどグループインタビューをした際に、同種の質問として「明日、テレビがなくなったら困りますか?」と聞いたところ、驚くべきことに100%の回答が「なくなっても困らない」というものであった
 
 この背景には、番組を見逃しても「YouTube」や「ニコニコ動画」等の動画共有サイトで見られるし、どうしても見たいものに関しては後日DVDを購入すればいいという考えがある。それを裏付けるように、追加質問で「動画共有サイト等も一切使えない場合はどうか?」と聞きなおしたところ、「困らない」と答えた人1割にまで激減してしまった
 
 自分で情報を調べて見つけ出す能力が高い人ほど、「困らない」と回答する傾向が強く、インターネットリテラシーの高さとも比例していた。
 
 野村総研の調査結果を見ても、全体で24割の人がテレビを見る時間が減ってきていると答えている。このことを考えると、企業が生活習慣の変化を見過ごしてテレビCMのみに特化したプロモーション施策を行っていては、将来的なブランドバリュー構築に大きな欠損を与えかねないと言えるだろう。
 
 
 
他メディアより認知率の高いモバイル広告
 
 次の3つのグラフがテレビ、PC、モバイルを媒体別に見た、CMの認知率を表すグラフである。この3のグラフを比較して分かることは、モバイル>PCTVの順で、接触回数が少なくても認知率は高いということだ。
 
 
 
 
 
 
図  テレビCMの投下量(個人GRP)とCM認知率の関係(出典:ビデオリサーチ)
 
 
 
 
 
 
 
図  インターネット広告のフリークエンシー(表示回数)とCM認知率の関係(出典:USEN、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム)
 
 
 
 
 
 
図  「今回、Quick.TVで流したCMの清涼飲料は何でしょうか?」の質問に正確に商品名を答えたユーザーの分布(出典:フロントメディア)
 
 
 テレビの場合、個人GRPGross Rating Point:のべ視聴率、テレビCMの放映回数と番組の視聴率をかけた総和のこと)が500GRPのところでCM認知率は31%になっている。500GRPというのは、リーチ(広告を見た人の割合)を80%強と仮定すれば、フリークエンシー(広告が表示された回数)は6回程度だ。つまり、8割以上の人に平均6回ぐらいCMを見せて、広告認知率は31になるということだ。ところPCの場合、6回の視聴に対する認知率は60強、モバイルの場合は6回の視聴に対して70%の認知を示している。
 
 仮説を立てるに、画面を小さくするとユーザーはコンテンツを注視しなければならず、その結果、テレビPCより少ない回数で認知率が上がるのだろう逆にテレビの場合、ながら見が一般的なので、接触回数が多くとも認知率は低いと言う結果になると考えられる。
 
 最近はモバイルで動画を見るユーザーも増えてきている。まだ具体的な調査結果は出ていないが、バイルにおける動画CMもかなりの効果があるのではないかと、広告ビジネスを考える上で期待している