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20080115


調査研究事業

2007年度NEC C&C財団シンポジウム
「情報アクセシビリティ-国・地域・コミュニティの役割」

2007年度NEC C&C財団シンポジウムは、「情報アクセシビリティ-国・地域・コミュニティの役割」と題して、日刊工業新聞社 国際社会経済研究所の後援のもと、去る2008年1月15日泉ガーデンコンファレンスセンターにて100名を超える参加を頂き、開催された。

山田肇教授
山田肇教授

東洋大学の山田肇教授による第一部「情報アクセシビリティ、世界はどう動いているか:欧米の調達基準を中心に」では、現在の日本はIT環境が整えられ、ITの利活用が進められてはいるが、高齢者・障害者などにとっては、「IT機器やサービスは操作しにくい、活用できない」というのが実態であると指摘した。米国ではリハビリテーション法508条の基準改定が進み、企業もそれにあわせる動きがあり、欧州では欧州委員会が中心に情報アクセシビリティの視点での公共調達の義務化が進められている。日本でも2008年には情報機器・サービスのアクセシビリティガイドラインJIS X8341の改定作業に入る予定がある。国際的な整合性をとり、日本の企業がIT機器を輸出しても困らないようにするのも必要であるが、公共調達での情報アクセシビリティの配慮を義務化し、企業の人が本気になって、情報アクセシビリティに配慮した製品をつくるように変わって行く必要があると訴えた。

笠松和市氏
笠松和市氏

第二部では、「地域の試み」として、成功している3つの事例をご紹介いただいた。 徳島県上勝町長、笠松和市(かさまつかずいち)氏による 「上勝町・情報化で~葉っぱビジネスから地球環境への挑戦」。面積109Km2(10Km四方)、その86%が山で人口2000人という片田舎、しかも高齢化率48%、55の集落からなる上勝町が、年商2.6億のビジネスを創出した。「葉っぱをお金に変える狸の話です」とジョークを言っておられたが、防災無線を活用した無線FAX、高齢者専用パソコン、専用ブラウザ(ソフトウェア)を武器に、高級料亭などでの料理に彩(いろどり)を添える「葉っぱ」を、必要なものを必要なだけ迅速かつ正確に届けることをビジネスとした。原価は自然のものなのでタダ同然。高齢者の生きがいづくりと健康増進に大きな効果を生み、しかも収入につながっている。上勝町は、更に、ゼロウェイスト宣言(廃棄物をださない)のもと、環境問題にも挑戦中。「空気が汚れたままだと、人の心も汚れる」と地球を汚さない人づくりにも余念が無い。

遠藤隆也氏
遠藤隆也氏

2つめは「佐久における地域活動:シニア移住者からみた地域コミュニティからの学び」と題しM-SAKUネットワークス代表、遠藤隆也(えんどうたかや)氏の事例。遠藤氏は都心での長年のIT関連の仕事から、長野県佐久穂町にI(アイ)ターンして活躍中のシニア。スローなユビキタスライフに共感するライフスタイルを説く。M-SAKUのMはMultidisciplinary総合的という意味で、「各人のまわりの小さな気づき」の情報をネットワークを使って共有することを支援し、地域活動を活性化させていこうというもの。有機農家からの野菜についた情報を生かした「食」、モノの地産地消を勧める「まちの駅活動」、体験情報を分かち合う「健康」、子育て支援や、世代間の交流を促す「子供」情報ネットなどの、佐久穂での具体的な情報共有の活動を示し、地域の人々の豊かな交流を促すためには、体験した情報が、ネットワークでどのように組織化されるか、総合的にどのようにデザインされているかが重要と説いた。

加納尚明氏
加納尚明氏

最後は、「地域で働く障害者を増やす-IT教育から就労支援まで」と題してNPO法人札幌チャレンジドの事務局長 加納尚明(かのうなおあき)氏の事例。2000年5月にNPO法人札幌チャレンジド(チャレンジドは障害を持つ方々のこと)を立ち上げ、障害者のIT教育だけにとどまらず、仕事を受けるところまでを視野に入れ支援している。「営業なくして就労なし」との信念で、事務局長自ら動き回り、企業との提携パートナーシップを開拓。写真加工、字幕製作、ホームページ作成などの仕事を受注し、年間約50名の障害者の就労を支援する実績を残す。仕事の機会を自ら作り出すことこそ、真の就労支援との考えで、地道な活動を一歩一歩固めている。

関根千佳氏
関根千佳氏
小林隆准教授
小林隆准教授

休憩を挟んで、東洋大学山田肇教授がコーディネータを努める第三部「全員参加社会へ-国・地域・コミュニティの役割」と題したパネルディスカッションでは、パネリストに、第二部でお話を頂いた笠松和市氏、遠藤隆也氏、加納尚明氏のほか、関根千佳氏(せきねちか、株式会社ユーディット代表取締役社長)、小林隆准教授(こばやしたかし 東海大学政治経済学部政治学科准教授)をお迎えした。ここでは、パネルディスカッションの要約は省略するが、遠藤隆也氏の「良さを引き出す役目のfacilitatorがいることも活性化には重要」、小林准教授の「平等性、公平性を捨てることが必要な時もある」、関根氏の「活動が元気になるもとは、ヨソもの、若もの、バカもの、この3つが必要」、そして「ユビキタスには、今だけ、ここだけ、私だけ、という面もある」と持論を展開した。 加納氏も「地域での成功は、地の利を見つかられるかどうかにかかる」「やりたいことをやっているだけなので苦労などは無い、元気だ、元気だと言い続けるのも重要」という、熱気溢れるお話から「地域の活性化は紙切れ一枚でできる。補助金で建てた施設は、用途を制限するよりも、有効利用を地域に任せることだ」という提言まであり、山田肇コーディネータの好リードにて時間を感じさせないパネル討論となった。

今回のシンポジウムが、情報アクセシビリティの視点で今一度、自分の仕事を考える良い刺激となったことを願う。

シンポジウムの様子
パネルディスカッション
パネルディスカッション
要約筆記と手話通訳
要約筆記と手話通訳

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